カートイズミーティング & カートイワークスのコラボ企画第14回です。14回目のテーマは「アオシマが80円に込めた愛」です。全国一の模型の産地、静岡県静岡市に本社を置く老舗 アオシマ (青島文化教材社) のプラモデルのお話しです。プラモデルの価格は高騰するばかりですが、その昔アオシマには 80円のプラモデルが有りました。今回はそんなチープなプラモデルがテーマです。
目次
- 1 アオシマのプラモデル
- 2 アオシマのスーパーミニカー
- 3 胸騒ぎの劇画調パッケージ
- 4 初期のスーパーカー四天王
- 5 組立説明図はパッケージ裏
- 6 スーパーミニカーの中身
- 7 跳ね馬とランボルギーニ
- 8 最中分割ラインを巧みに利用
- 9 ボブ・ウォレス仕様 ハラマRS?
- 10 混血のパンテーラ
- 11 国産スーパーカー?
- 12 作るとどうなる?ウラッコとパンテーラ
- 13 アオシマの跳ね馬
- 14 2種類のディノ
- 15 大改造!DinoRS
- 16 ランチア ストラトス
- 17 スロットカー ボディ フェラーリ BB
- 18 最中分割で悪いか!! イオタとミウラ
- 19 名門マセラティ
- 20 買わずに後悔 ファーストアソート
- 21 スーパーカーブームの仇花
- 22 アオシマが80円に込めた愛
アオシマのプラモデル
アオシマのプラモデルと言えば、VIPシリーズやグラチャンシリーズなど1/24のカーモデルを思い浮かべる方が多いと思います。写真は懐かしいアオシマの260Zターボとトヨタ2000GTシルエットの1/24プラモデルです。
しかし変人コレクターを自称する筆者はここでも3インチ (トミカサイズ) に固執します。今回はアオシマがまだ有限会社だった頃のスーパーミニカーに焦点を当てようと思います。
アオシマのスーパーミニカー
スーパーカーブーム華やかなりし1976年ごろ、アオシマからスーパーミニカーなるプラモデルが発売されました。箱の全幅で15センチほどのチープなプラモデルが4個シュリンクパックされて300円で売られていました。個別売りする店では一個80円でした。写真はそのシュリンクパックに封入されていたミニカタログです。ラインナップはスーパーカーブーム直球ど真ん中です。
胸騒ぎの劇画調パッケージ
パッケージを見てみましょう。構図が正確なのかどうかはおいて、妙に存在感を主張する劇画調の絵柄です。当事のプラモデルではミリタリー系キットに、こうしたストーリーを感じさせる劇画調の絵が使われており、プラモデル少年たちの期待感を煽っていましたが、アオシマはこの方程式をスーパーカーにも応用したのです。
初期のスーパーカー四天王
シリーズ初期に発売されたのはカウンタック、フェラーリBB、ポルシェ930ターボ、マセラティ・ボーラの 4台です。パッケージが少々傷んでいるのはご容赦下さい。当事のスーパーカーブームにあって、人気の四天王に相当する車種です。ポルシェはスーパーカーなのか?ボーラよりもパンテーラなのでは?と言ったスーパーカー定義の論議は置いて、この 4台の構成を見てみましょう。
組立説明図はパッケージ裏
キャラメル箱の裏側が組立説明図です。パーツの構成や可動部、組立が簡単なことが一目でわかるようになっています。組立が容易かどうかは子供たちにとって重要な要素でした。当時は子供たちにはハードルが高く、完成が難しいプラモデルが多かったのです。組立が簡単で安価なスーパーミニカーは子供たちがプラモデルの門戸を叩くエントリーモデルの役割を果たしました。
ポルシェはドアが、その他の車はエンジンフードが開閉します。カウンタックは開き方が実車と逆の後ろヒンジです。当事の子供たちにとってそんな考証はどうでも良く、可動部が有ることが喜びでした。
スーパーミニカーの中身
さて、そのスーパーミニカーの中身を見てみましょう。スライド金型を使わない上下モナカキットで接着剤は省略されています。窓の透明パーツも省略です。ホイールを車軸にして樹脂成型タイヤを止めるため、ゴムや金属パーツもありません。タイヤは回転しますがホイールは回転しないという奇妙な走り方です。これらに紙シールが付くというチープな構成でした。
跳ね馬とランボルギーニ
スーパーカーブームの両横綱フェラーリBBとランボルギーニ カウンタックに続いて続々とスーパーカーが発売されました。写真はフェラーリ308GTBとランボルギーニ イオタ、ウラッコ、ハラマのパッケージです。人気に乏しいウラッコやハラマは近年 京商が模型化するまでは 3インチ唯一の存在でした。パッケージはスーパーカーたちがキャラクター化したような存在感を放っています。
最中分割ラインを巧みに利用
前述の 4台の構成を見てみましょう。ハラマはボンネットが、イオタは最中分割ラインの上半分のリアカウルが開閉できます。実車と開き方が違うなんて言わないであげて下さい。
子供たちにとってこうしたアクション付き模型は、すました顔したプロポーションモデルよりずっと嬉しかったのですから。
ボブ・ウォレス仕様 ハラマRS?
4台のパッケージ内部です。写真右上 箱絵と異なりハラマのライトがむき出しになっています。ボブ・ウォレスが作ったあのワンオフモデルのハラマRSなのでしょうか?それとも単なる手抜きなのでしょうか?カートイズミーティングの夜会でこうしたチープモデルを具に、そんな意味の無い議論をするのは何よりも楽しいひと時です。
混血のパンテーラ
イタリアンスーパーカーにアメリカ製 V8エンジンを載せたパンテーラはGT4を思わせるワイドなプロポーションが魅力です。黄色いボディの所々をブラックアウトしたパンテーラの箱絵は、スーパーカーブーム当事に何度もメディアに登場した黄色いパンテーラを思い出させます。
漫画サーキットの狼では「極悪連のパンテーラ」「四国の獅子のパンテーラ」と、二世代に渡り悪役を演じたパンテーラのプラモデルは子供たちからさぞかし酷い扱いを受けたことでしょう。
国産スーパーカー?
スーパーカーブーム当時、パフォーマンス的になんとかスーパーカーの仲間入りさせてもらった国産車がトヨタ2000GTとフェアレディ240Zです。
国産旧車の世界において両雄の風格を漂わせるこの 2車が、スーパーカーに太刀打ちできる国産車としてスーパーミニカーにラインナップされたことに、子供たちは誇らしい気持を抱きました。
作るとどうなる?ウラッコとパンテーラ
さてそんなスーパーミニカーですが、作るとどんな姿になるのでしょうか?金色のウラッコはエンジンフードが開閉可動するように改造されています。
エンジンフードの開き方が実車と違いますがそれで良いのです。アオシマは「創造のプラモデル」メーカーなのですから。
このシリーズは透明パーツが省略されており、写真の2台はウィンドゥパーツを自作して追加しています。
しかしパンテーラは自作した透明パーツとボディに隙間が出来てしまい某車模型専門誌の読者コンテストでは酷評されてしまいました。80円のプラモデルを大真面目に作るひとも、それを大真面目に酷評する側も、どちらも大人気無いですね。
アオシマの跳ね馬
写真のフェラーリは 512BBと 365GTB4デイトナです。512BBは省略された窓パーツを、エポキシ系接着剤で再現しようとしましたが泡立ってしまい透明度に問題を残しました。BBもリアカウルが最中分割ラインで開閉しますがこちらは実車と同じ開き方です。
完成品のデイトナは不幸にも一緒に保管されていたスプレー塗料を浴びて白い飛沫を浴びたようになっています。
デイトナの優美なノーズとは程遠い分厚いボディは、レッドスレッド職人にボディチョップして詰めてもらわなければならないでしょう。
2種類のディノ
最も美しいピッコロフェラーリと言われるディノ 246GTですが、写真の黄色い完成品はなんだか踏まれたカエルみたいです。筆者の名誉のために追記しますが、本コーナーに出演した数々の完成品のいくつかは格安完成品ジャンク山盛り状態を入手したもので筆者の作品では有りません。
ディノは前述の 246GTとサーキットの狼に出演したディノRS (レーシングスペシャル。一部メディアでは版権問題をクリアするためにヤタベRSと呼ばれる) がラインナップされていました。ディノRSが発売された頃は、スーパーカーブームが沈静化しスーパーミニカーシリーズは生産数が激減していました。おかげでこのディノRSは福沢諭吉さんが必要なほどハイパープレミア化して貧乏な筆者は入手出来ませんでした。
写真の RSはスポイラーやタイヤが欠品したジャンク状態を、カートイズミーティングのジャンカークジラ氏から譲って頂いた希少な一品で、過去の当コラムにも出演しています。京商すら実現しなかった (笑) エンジンフード開閉アクション付きです。
大改造!DinoRS
筆者はアオシマのディノRSが欲しくて仕方無かったのですが、既述の通りハイパープレミアで入手できませんでした。
そこでアオシマの246GTから改造を試みました。パテ盛りと切削を繰り返し、キャノピーは透明スプーンを流用しています。
この作例は当コラム第二弾にも出演しています。漫画サーキットの狼でも、病死した沖田のディノ 246GTを改造してディノRSが生まれますが、それと同じプロセスを踏んだのです。
京商から素晴らしい 1/64 ヤタベRSが発売された今では笑い話ですが、今でも眺めるとディノRSのミニカーが欲しくてたまらなかった情熱に溢れた時代を思い出します。
ランチア ストラトス
ディノと言えばその V6エンジンを積んだランチア ストラトス ターボもラインナップされていました。写真は筆者がまだ老眼になる前の作例で、ボンネットのマルボロ ロゴなどを手書きしていました。
このストラトスが含まれる 4台アソートにはセリカターボ (シュニッツアー) やポルシェ935-77ターボなどの希少品が同梱されていたのですが、価値がわからぬ少年だった筆者に爆竹破砕されてしまいました。アンコールワット遺跡を破壊したテロリスト級の悪行だったと反省しています。
スロットカー ボディ フェラーリ BB
写真のあちこち壊れた無残なフェラーリ BBは、アオシマのスーパーミニカーをオーロラ AFXの HOスロットカー (マグナカー) のシャシに乗るように改造したものです。軽量化のためにあちこちに開口部を空け、ボディ剛性が著しく衰えた状態で何度もクラッシュしてボディはボロボロです。
走らせては切り刻みを繰り返した懐かしい思い出が蘇ります。プラ製のスーパーミニカーは HOサイズのスロットカーボディに改造するのに適していました。
セリカターボやポルシェ935ターボはこうして切り刻まれて、遊び倒されたのちに爆竹破砕され、まさに天命を全うしたのです。
最中分割で悪いか!! イオタとミウラ
昔も今もスーパーカーの主役 ランボのイオタとミウラです。最中分割ラインから上のリアカウルが開閉します。
トミカ プレミアムのイオタがつい最近発売されるまで、リアカウルが開閉出来るイオタの 3インチモデルは無かったと記憶しています。 (ミウラはホットウィールとCMCの 3インチモデルが開閉可能でした)
最中分割ラインから上だけでも開閉できることが重要なのです。
それを最初に実現したアオシマこそが偉大なのです。
名門マセラティ
名門マセラティからも前述のボーラに加えカムシンやブーメランが発売されていました。ベルトーネデザインのカムシンは近年京商からリリースされるまで 3インチミニカー皆無のカルトカーでした。
市販化されなかったブーメランを早々に模型化したのは、アオシマが先見の明に溢れた商品展開をしていた証拠です。
しかしウィンドウパーツが無いブーメランは檻のようで、まさにバードゲージです。御年配の方ならこの意味わかって頂けますでしょうか。
買わずに後悔 ファーストアソート
スーパーミニカーシリーズ最初のアソートには意味不明のミサイルを搭載したシボレーモンザらしきカタパルターGSなどの仰天モデルが発売されていました。箱サイドの写真の上側に写る 4台こそが、スーパーミニカーの最初の 4台なのです。ゲテモノ好きの筆者すら買わなかったのに、いったい誰が買ったのでしょうか?? こうした意味不明のミサイルや羽根を勝手に付けてしまうところこそ、まさに創造のプラモデルを掲げるアオシマの真骨頂であることを当事の筆者は理解できませんでした。そして今、無性にそのファーストアソートが欲しくてたまりません。
スーパーカーブームの仇花
今思えばアオシマのスーパーミニカーはスーパーカーブームの仇花でした。握り締めた百円玉ではサクラの 1/43ミニカーは言うに及ばず、トミカすら買えなかった子供たちのフラストレーションのはけ口だったのだと思います。駄菓子屋で買われたチープなプラモデルは公園で作られて砂場で遊ばれ、帰る頃には破壊されて形すら残っていなかったのでしょう。組立てられずに箱のまま保管されているプラモデルとどちらが幸せなのか私は今もって答えを出すことが出来ません。
アオシマが80円に込めた愛
子供たちはどれにするか迷った末に買って、作り、遊び、破壊して 80円を存分に満喫したことでしょう。その意味でプラモデル本来の目的が成し遂げられたのは間違い有りません。子供たちは、限られたコストのなかで出来るだけ楽しさを詰め込もうとした商品なのか、適当な手抜きで作られた商品なのかを見抜く力があります。そんな子供たちに選ばれたスーパーミニカーとはアオシマが 80円というギリギリのコストのプラモデルに込めた、子供たちへの愛情の結晶なのだと思うのです。
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